青少年劇場はウラジオストクのメインストリート「スベトランスカヤ」通りに位置している。
スベトランスカヤはレストランやジュエリー店の立ち並ぶにぎやかな通りだ。右ハンドルの輸入車が絶えず行き来する。この町に急速に浸透した消費文化の象徴ともいえる地区だ。物質的な欲望や排気ガスにまみれながらも、この地味な劇場は「別の価値観」を探しているように見える。
青少年劇場の主要演目の一つに「子供達(原題「親愛なるエレーナ・セルゲーエブナ」)」という芝居がある。ラズモフスカヤという劇作家の作品で、この台本は映画化されたこともある。私は昨年9月にウラジオを訪れた際、「子供達」を観る機会に恵まれた。残念ながら、その日客席は半分も埋まっていなかった。
筋はいたって簡単。教師エレーナの誕生日に彼女の生徒達がお祝いにやってくる。感激するエレーナだが、次第に生徒達の下心が明らかになる。生徒達は学校からテストの答案を盗み出して、成績を改竄しようと企んでいた。エレーナ先生に対し、子供達はときに脅し、ときに泣きついて、答案の保管された棚の鍵を奪い取ろうとする。物質的な幸福ばかり求め、暴力にさえ訴える生徒たちに、エレーナ先生は悲痛な声で自分の理想を語り続ける。
「皆が物欲に支配されても、必ず誰かが『それじゃいけない!』と声を上げてきた」
女優オルィシェチコ演じるエレーナ先生の声が空回りするほどに、観客は胸を締め付けられる。2009年に入っても、青少年劇場は「子供達」の上演を続けている。そのことをとても心強く思う。エレーナ先生の声はむなしくとも、スベトランスカヤ通りで響き続けてほしい。
2009/01/20 JSN 尾松 亮
※この記事は、新潟日報紙の「環日本海情報ライン」2009年1月20日掲載の記事を転載したものです。