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ウラジオ短信

「ノスタルジア」の少年時代

レストラン「ノスタルジア」はウラジオストク市のモルスカヤ第一通りに位置する、いわゆるロシア料理の老舗である。 

7月の初旬、某海運会社の同行通訳としてウラジオストクに滞在した際に、私は初めて「ノスタルジア」を訪れた。「ノスタルジア」という名前が良く似合う、古風なインテリアで、壁には帝政ロシア時代の肖像画が並んでいる。レストランの入り口にはアンティークショップもあり、「懐かしさ」の雰囲気が演出されている。このレストランでは本格的なロシア料理を楽しむことができる。特に魚のだしで取ったシンプルな塩味のスープ「ウハー」は絶品だ。

それでも、さすがサービス産業の後進国らしく、詰めの甘さが目立つ。まず運悪く断水の時期にぶつかってしまったため、トイレが使えない上に、手を洗うのもバケツの水を使うという有様だった。またカード支払いが可能という宣伝文句であったのに、結局はアンティークショップが閉店する8時以降カードは使えない、というのが実情であった。

にもかかわらず、「ノスタルジア」ですごした時間は心地よかった。レストランの専属ピアニストのおかげである。彼女は、私達一行を見てすぐに日本人と気づいたらしく、ロシアの懐メロに続いて、「なきなさい、わらいなさい」の歌詞で有名な「花」を演奏してくれた。こちらが驚いて彼女の方を見ると、意味ありげに微笑んで、次には井上用水の「少年時代」の演奏を始めた。これが「少年時代」の「ノスタルジア」を歌った曲であることを知っているのだろうか? レストランの名前にぴったりの選曲だ。知らないのだとすれば粋な偶然であるし、知っていて選曲したのだとしてもやはり粋だ。

こんなもてなしに、日本とウラジオの近さ、付き合いの長さを感じさせられた。

2008/8/28 JSN 尾松 亮

※この記事は、新潟日報紙の「北東アジア便り」2008年8月28日掲載の記事を転載したものです。

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