9月下旬、東シベリア太平洋パイプライン用の石油積み出し港が建設されているコジミノ湾に行く機会があった。同湾は、ウラジオストクから車で5時間、ナホトカ市内からも1時間はかかる距離にあり、ボストチヌイ港の南東に位置する。
6月末に訪れた際には、土砂を積んだトラックを見掛ける程度の工事しか行われていなかったが、わずか3カ月足らずで、湾周辺の景色が一変していた。湾の南側の山の斜面が切り開かれ、港の向こう側では、作業船の活動する様子が見えた。資材置き場には、気の早いことに送油管が山積みされ、何より驚いたのが、湾の南側の道路を行き来するダンプカーがあまりにも多かったことだ。
工事が短期間で大きく進んだ背景には、それなりの理由があると思われる。ひとつは、プーチン首相が現地を視察したことである。要人を迎えるにあたり、まだ何もないでは面目が立たない。首相来訪までに、全力で工事を進めさせたのだろう。
さらに言えば、こういう事情があるかもしれない。実際に現場で工事を監督するのは、国営のパイプライン運営会社トランスネフチの子会社だ。ただ、計画自体はロシアの資源戦略に沿ったものであり、「石油の売り先を増やす」という分かりやすい目的がある。従って、工期の遅れは認められないし、多大な費用が掛かろうとも、早期に実現せねばならない。そもそも採算性は重要ではないといわれるほどの大計画である。
懸念材料は、昨今の金融危機と原油価格の下落だろう。資金調達が難しくなるかもしれないし、東シベリアの油田開発の遅延もあり得る。こうした状況下でも大規模計画が順調に推移するのか、今後のロシアの資源戦略を予測する上では興味深い。
2008/10/28 JSN 浜野 剛
※この記事は、新潟日報紙の「北東アジア便り」2008年10月28日掲載の記事を転載したものです。