ウラジオストクでは、12月頃から海上に氷が張り始める。街の中心部に近い海岸周辺の氷の上は、散歩をする人やスケートをする子どもなど、皆が思い思いに楽しく過ごす、市民にとっての憩いの広場となる。
氷上で特に目立つのは、氷穴釣りをする人々だ。海が凍り始めると、街中で金属製の四角いリュックサックを背負う人を頻繁に見かけるようになる。その異様さに、初めて見ると一体何なのだと驚いてしまうが、中には氷に穴を開けるドリル、さお、餌などが入っていて、リュックサック本体は釣果を入れる容器になり、釣り糸を垂らしているときに座る椅子にもなるという、実は合理的な釣り用具入れである。
穴釣りのピークである1月下旬ともなると、海岸沿いの氷上に数十人ずらっと並んで釣りに興じる、独特な光景が見られる。ある種、ウラジオストクの風物詩ともいえるかもしれない。
ロシアでは3月になると、暦の上で「冬は終わり、春が来た」ことになる。ウラジオストクでは2月中旬から日中に零度以上を観測するようになり、街中で防寒帽子をかぶらない人が目立ち始め、道路の雪や氷が溶け始めた。
当然、海上に張った氷も溶け始めている。最近では、車数台で氷上に釣りに繰り出したグループが、氷が割れて車ごと海に落ちてしまうといったような事故が頻発するようになってきた。自治体は頻繁に注意を喚起、氷上での活動自粛を呼び掛けているが、このような事故はどうしても毎年100件以上にはなってしまうという。
自分自身も2月半ばまでは氷上を散歩していたが、今ではさすがに控えるようになった。極東の街も日に日に暖かくなり、春めいてきている。しかしその分、冬にしか見られないもの、できないことが段々無くなってくるので、少々寂しくもある。
2008/03/11 JSN 黒須 将道
※この記事は、新潟日報紙の「環日本海情報ライン」2008年3月11日掲載の記事を転載したものです。