最近のロシアで最も注目されている話題は、2014年の冬季五輪の誘致だろう。立候補を表明しているソチは、黒海に面したリゾート地。海水浴や温泉が有名なところで、冬季五輪のイメージとはあまり結びつかない。しかし、ロシアは本気である。大統領を筆頭に、国を挙げて誘致に取り組み、競技に必要な施設は全て作るつもりのようだ。その過熱した報道だけを見ていると、「もうソチに決まったの?」と勘違いしそうになる。実際にそう思っているロシア人も多いことだろう。
ウラジオストクでもこれと似たようなことが起きている。2012年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催である。APECの公式サイトを見ても、正式決定はまだされておらず、開催地が決まっているのは2010年までである。にもかかわらず、ウラジオ開催は既定事実のように扱われ、「APECの準備に5000億円もの莫大な投資が行われる」という観測が独り歩きしている。
投資はさておき、ウラジオ開催について言えば、根拠がないわけではない。アジア太平洋地域におけるロシアのプレゼンスが今後も高まるのは必至で、ロシアでの開催は当然の流れといえる。ロシアで開くのであれば、APEC関連の行事を開催した実績を持ち、ロシアの東の玄関口であるウラジオが最適、という段階的な論法が成り立つ。しかも、五輪のように強力な対抗馬がいるわけでもないので、おそらくそうなるのだろう。
ただ、実際にAPEC首脳会議が開かれることを想定すれば、残念ながら、今のウラジオには各国の首脳を一度に受け入れられるだけの能力はない。ホテルや会議場、空港、道路など様々な施設やインフラの整備が必要だ。しかし、やるからには成功させねばならず、ロシアは国の威信をかけて準備するだろう。少しばかり行き過ぎた報道や有力者の発言の背景には、地元の強い期待感があるのかもしれない。
2007/06/15 JSN M野 剛
※この記事は、新潟日報紙の「環日本海情報ライン」2007年6月19日掲載の記事を転載したものです。