ウラジオストクの友人にソーセージ工場を経営しているM社長(29歳)がいる。彼は、アルメニア人で無一文からウラジオで事業を起こしたやり手の男である。大変な大酒のみで、飲み始めると一人で2、3本ウオッカを空けてしまう豪快な人物である。
昨年末、そのM社長からウラジオで食事の招待を受けた。私は「今日は飲むしかない」と気合を入れて臨んだのだが、その席で彼は 「オレは酒をやめた」というのである。「身体の具合でも悪いのか」と聞くと、「オレは毎日酒を飲んで、今日やらなければならないことをいつも明日に延ばしていた」と、後悔の念を語った。
昨年8月の「ルーブルの切り下げ」以降、事業のソーセージ販売が落込んでいることは聞いていた。そのため、M社長はビジネスチャンスを求め、CIS諸国までよく出かけていた。彼は「今のロシアでは、誰もがビジネスチャンスをさがしている。昔のようなやり方は通用しない」という。
私は彼の意志を試そうと、何度か「乾杯をしよう」とウオッカを勧めたが、その晩、彼は一滴も口にすることはなかった。
私はこのロシアの経済の破綻は、長期的に見るとプラスに働くものと思っている。例えば、外国製品の値段の高騰から、商店にはロシア製品が多く見られるようになってきた。そして、M社長のように、ロシア人のビジネスに対するマインドも変化を始めている。
1999/01/11 JSN 田代雅章
※この記事は、新潟日報紙の「環日本海情報ライン」1999年01月掲載の記事を転載したものです。