いよいよモスクワを去る日が来た。
約4年間の滞在中、色々なロシア人の方々と知り合う事ができて、少しではあるが本当のロシアを勉強させていただいたと思っている。特にこの「モスクワ便り」を書かせていただくようになってからは、様々な分野で活躍するロシア人の方々のお話しを聞けて、有意義な滞在を送る事ができた。
もう一つ、思いもかけず有意義な経験をさせていただいたのは、ロシア製品を日本へ輸入したいと言う友人の仕事を、ビジネス経験のない私が間に入って橋渡しをし、ロシアンビジネスまで勉強する事になった事だ。
この件で友人は、ロシアの地方都市の小さな工場で生産される製品を日本へ輸出する事が如何に大変かを知る事になった。工場の経営者は、ぜひ日本にも製品を売りたいと取引に熱意を示してくれたのだが、商談が進むうち、ロシアでは輸入だけではなく、輸出にも許可が必要な事が判明した。ほとんどの町工場はこのような輸出許可は取得していない。営業許可等も記載されている製品のみに有効な物で、それ以外は製品の原材料であっても別に許可が必要だと言う。
次に大きな問題となったのは国際輸送の方法だ。小さな町工場なので輸出経験もなく、どうやって日本へ運ぶかが問題となった。何より困ったのは、ロシアの国際輸送会社が少量輸送には全く興味を示さず、逆に面倒と言った様子である事だった。1度の輸送量が重量にして1トン位では、苦労して物を動かすよりは仕事をしない方がまし、と言った態度で、取り扱ってもくれなかった事に驚いた。工場側は1トンどころか500kg分でも生産能力オーバーと言う感じだし、日本の輸入者も、売れるかどうかわからない物を、最初から何トンも購入はできないと言う事で、少量を扱う国際輸送会社を見つけるのが大変だった。
在モスクワの国際運輸会社を通すにしても、こうした会社の支所が各地方都市に存在するわけではない。また運輸会社と町工場の取引契約が必要で、工場側は、書類を揃える費用と時間がかかり過ぎ、採算が合わないとして取引ができなかったケースもあった。ロシアの通関制度は複雑で手間がかかるとも聞き、なるほどと納得する反面、原因は制度ばかりではないのでは?とも考えさせられた。
輸送方法をあれこれ探るうち、ある工場の経営者は私に「一番てっとり早く、あなたがスーツケースに100kg位ずつ詰めて運べばどう?」などと担ぎ屋的な輸送案までが飛び出して来たのには驚いた。しかし考えてみると、この国の人々はついこの間まで、アジアやヨーロッパから、この方法でありとあらゆる物を、入る限りの量を袋に詰め込み、シベリア鉄道や飛行機で持ち込んでは露天で売りさばいていたのだ。そう考えると、ロシア側にとっては何も珍しい事ではないのかもしれない。
友人が何とかロシアから輸入できるよう手伝ううち、とある工場経営者と出会い、2年がかりで取引・輸送方法を話し合った末、最近ようやくヨーロッパ諸国と同じように、ロシアから日本へ製品が動かせるようになってきた。そして他にもロシアの貿易会社を通じて、別の製品を輸入できるようになってきた。
これは、ロシアの経済発展により、小さな町工場の経営者たちも、設備投資として、コンピューターを導入しはじめた事が大きな鍵となっている。製品の発送・到着時にはお互いがメールを遣り取りして確認し、双方が安心し、互いの信頼関係を築けるようになったと私は考えている。
ある工場の人から、何も連絡事項はなくてもメールが来て、「お久しぶり、お元気ですか?」と聞いてくれるだけで嬉しくなる。これからもこの関係を続けて、友人の会社とのビジネスがますます発展する事を願っている。
了