ロシアでは7月1日から指定区域を除き、カジノの営業が禁止された。モスクワだけでなく、地方都市でも、カジノとスロットマシン場がいたるところにあり、相当な規模のビジネスに拡大していたはずなので、本当にすべて禁止してしまうのか、関心を持っていた。結局のところ、大きな混乱はなく、一部の店がレストランやナイトクラブへと姿を変えたところもあるが、ほとんどのカジノが営業を停止した。
とはいえ、抜け道が全くなかったわけでなく、カジノの主要なゲームの一つであるポーカーは、競技ポーカーと名前を変え、営業しているところもある。競技ポーカーについては、すでに1年以上前から各業者がライセンスの取得に動いていた。周到に準備していた業者もいたわけである。また、スロットマシンについては、“Lottery Machine”なる代替の機械を発明し、営業を続けようとする動きもあるが、取扱業者の話では、当局がこの機械も「違法」と判断する可能性が極めて高いので、危険だと指摘している。
実際の現場はどうなっているか、7月上旬、モスクワのスロットマシンの中古回収販売会社に足を運び、話を聞いてみた。ロシアで使われるスロットマシンの多くは、海外メーカーの輸入品である。この業者は、こうした輸入品を回収し、アジアやアフリカに輸出するビジネスを手がけている。社長はまだ30代と若いが、スロット以外に、携帯電話、公共料金等の支払端末(ターミナル)や自動販売機を製造、販売している。今回のカジノ禁止は、彼らにとって大きなビジネスチャンスだと思われたのだが、実際はそうでもないようだ。
スロットマシンの中古価格は、7月上旬の時点では、まだ大きな変動はなく、各業者が様子見の状態を続けているとのことであった。カジノの禁止が織り込み済みであったこと、業者がいまだに、当局が何らかの判断を下し、マシンを使える可能性が残っているのではないか、という淡い期待を抱いているせいで、流通量が爆発的に増えたり、価格が下落したりはしていないのだと言う。
この社長に、「ロシア政府はなぜカジノを禁止したのか」尋ねてみた。彼は苦笑いしながら、「分からない」とだけ答え、こう続けた。「我々の政府がやることは、予測不可能だ。ロシアでは、どんなビジネスでも明日になれば、何が起きるか分からない。スロットマシンのビジネスがダメになっても良いように、我々が支払端末や自販機の販売にも力を入れてきたのは、そのせいだ」
極東では、中古車関税の引き上げで、日本からの輸入が激減し、多くの個人業者が廃業するか、別のビジネスへの移行を余儀なくされた。ロシア相手に商売をするにあたっては、制度や法律が急激に変わり、それまでの努力とお金が無になるようなリスクがあることを常に想定せねばならない。そう実感させられた今回の一件であった。