夫/ビクトル( 55歳)年金生活者
妻/リュボーフィ(56歳)年金生活者
長男/セミョン(32歳)警察官
リュボーフィは沿海地方アルセーニェフ市の出身。ウスリースク国立教育大学を卒業して、地元に戻り、小学校教師になった。
ビクトルは漁船に乗っていたが、休暇で親元に帰省中だった。こうして二人は出会った。結婚したての頃、二人はリュボーフィの両親と同居していた。ビクトルはやがて警察官に転職した。通信教育で勉強して警察学校を卒業、警察中尉の階級(ソ連時代、警察官には軍の階級に準ずる14の階級があった)を得て、アルセーニェフの地区警察署に勤務するようになった。数年後に息子が生まれた。ビクトルは勤勉さを評価され、2部屋のアパートを割り当てられた。この頃には警察大尉に昇格していた。
一家は休日をいつも一緒に、ダーチャや海や大自然の中で過ごした。幸福な暮らしが続いた。
息子のセミョンは、成長して自立すると地元を離れた。現在、ハバロフスク市で妻と息子と暮らしている。セミョンは父親と同じ職業を選んで、警察大尉の地位にいる。しかし、セミョンが両親を忘れたことはない。夏になると決まって、セミョンは家族を連れて帰省する。孫は祖父母の田舎で夏を過ごすのを喜んでいる。空気はきれいだし、ダーチャではたくさん美味しい木の実や果物をお腹一杯食べられる。冬は冬で、ほぼ毎年、正月休みにセミョンは妻子と友人を伴って、アルセーニェフに帰って来る。大勢でにぎやかに新年を迎えて、冬期の休暇をスキーに行ったりして楽しく過ごすのが毎年の習慣になっている。
ビクトルとリュボーフィの方でも息子を訪ねる。たいていはダーチャでの農作業が完全に片付く10月の末に。菜園の収穫を済ませ、ダーチャを閉め、冬仕度を整え終えると、いざ、自家用マイクロバスに、息子家族への土産―ジャガイモなどの野菜と、ジャムやピクルスの類―を積んでハバロフスクを目指すのだ。
ボロビン家の収入は多くはない。警察官は定年が早いため、ビクトルは既に退職して、年金を月に5000ルーブル(約2万円)受け取っている。リュボーフィの年金は2200ルーブル。他に、ビクトルは4日に1日の割合で、24時間勤務の駐車場警備の仕事をしている。その給料が月平均で2400から3000ルーブルくらい。これだけで充分暮らしていける。家賃は二人共、住宅手当てが出るため、月に1500ルーブルくらいで済んでいる。食費が月に大体4000から5000ルーブル。ガソリン代は、ダーチャに車で行き来する季節だけかかるが冬場は車を使わないため、家計に響くほどではない。小さい町だから普段は車を使わなくても事足りる。再三息子が両親に金銭的援助を申し出てはいるが、ビクトルとリュボーフィは「金は年寄りよりも若い人に必要」と言って受け取ったためしがない。(2006年07月)