夫/セルゲイ(36歳)警備員
妻/ガリーナ(34歳)美容師
長男/アントン(8歳)
ガリーナの母/マリヤ(57歳)
ポチェムキンさん一家は、ガリーナの実家が所有するウラジオストク郊外の一軒家で暮らしている。この家は、4DKの比較的大きな住まいなので、祖母を含めた4人で暮らすには十分な広さである。しかしながら、この家の住宅環境はあまり良くない。夏場にしか水道が出ないうえ、暖房が通っていないので、冬場は室内用暖炉(ペチカ)で家を暖めている。このため、冬は給水栓まで水を汲みに行かねばならないうえ、暖房用の薪を常に用意しておかなくてはならない。
セルゲイとガリーナが結婚した頃は、彼女の父は元気に暮らしていたが、まもなく病気になり、1年足らずの入院の末に先立ってしまった。不幸はこれだけにとどまらず、葬儀の際、マリヤはショックからか、脳卒中で倒れてしまい、彼女も長期入院を強いられることになった。しかし、セルゲイとガリーナは退院させることを決断し、再び家族4人で暮らすようになったのである。
とはいえ、生活は決して楽ではない。美容師をしていたガリーナは、マリヤの看病をするために、一時的に退職した。セルゲイは、彼女の分の収入を補うために、より収入の多い夜間の警備の仕事に転職した。そうこうするうちに、マリヤは少しずつ話ができるようになり、腕も動くようになったのである。そのおかげで、四六時中看病をする必要はなくなり、一家はなけなしのお金をはたいて、家に電話を引いた。電話があれば、ガリーナが仕事に出ていても、何かあれば、マリヤが彼女を呼び出せるからである。これで、彼女は以前勤めていた美容院に復職することができた。ここのオーナーは、一家のことを良く理解してくれているので、ガリーナは自分の都合に合わせて勤務させてもらっている。
現在、一家の1ヶ月の収入は、セルゲイの給料が1万ルーブル、ガリーナが4500ルーブル、マリヤの年金が2650ルーブルである。このうち、まず、マリヤの薬代と医療費に4500ルーブルが消えていく。一家にとっては大きな負担である。食費は月に5000ルーブル、電気代が約300ルーブルである。
確かに、大変な生活を送ってはいるものの、決して自分たちが恵まれない環境にあるとは思っていない。むしろ、マリヤは奇跡的にも一命を取り留め、今も家族全員で助け合いながら暮らしていることに幸せを感じている。一家の夢は、マリヤの具合がもっと良くなって、夏に家族全員で海に出かけることである。それを誰よりもの望んでいるのは息子のアントンである。(2004年03月)