高級外車が盗まれれば、国中にその情報が伝わる。しかも、大半の高級車には盗難対策のための衛星システムが導入されているのに、依然として、盗難事件はなくならない。最近のロシアでは、車だけでなく、重機や建機の盗難が多発するようになった。KAMAZのローラー車や極めて特殊な用途の建設機械までもが盗まれる。こうした事件がニュースとして流れるのは稀だが、ベントレーが盗まれるのと同じくらい被害が大きいのである。
「ロードローラーがかっぱらわれた? 別に特別なことじゃない」
モスクワの交通警察によると、今年3月までに盗まれた重機、建機類は、KAMAZ製が39台、MAZ製が9台、ZIR製のトラックが8台、その他13台。白昼堂々とロードローラーが盗まれる事件もあったという。1台あたり数百万ルーブルもするトラックや建機が何台も盗まれているのだから、被害額は莫大だ。しかも、盗まれた建機が見つかることはほとんどない。
盗難車の“ロンダリング”の手口
盗難事件が多発していることを受け、警備が強化されたなかで、盗みを成功させるのは容易ではない。完全にプロの手口であり、犯罪集団によって、転売ルートが構築されているものと推測される。
まず、エンジンや車体番号を付け替える。車両を解体し部品として売りさばくケースもあれば、オークションに出品することもある。これには書類の偽造が鍵となるが、密売業者は本物と見分けがつかないほど精巧な書類を作ることができる。というのも、密売業者が、本物と同じ用紙を使って偽造書類を作ることもあるからだ。
盗難数が圧倒的に多いのはモスクワである。昨年12月にモスクワなど関係地域の捜査当局が合同で実施した広域特別捜査では、捜査に着手した311台のうち、25台の所在を突き止めた。その際、改めて明らかになったのは、盗まれた重機はモスクワやその近郊にはとどまらず、地方へ運ばれていることである。遠くはシベリアまで送られることもあるが、大部分はロシアの南部、特に北カフカースに流れる。北カフカースは、警察官の数が比較的少なく、捜査の手が及びにくい。犯罪者にとってみれば、盗難車をここまで持ってこられれば、成功したも同然である。さらには、チェチェンに隣接するイングーシ共和国やダゲスタン共和国、カバルディノ・バルカル共和国など北カフカースと呼ばれる地域は建設ラッシュが続いている。そして、ここには、冬季五輪の開催地となるソチがある。これら北カフカース周辺では、建機の需要が大きく、高値で取引される。
建機の所有者にとってみれば、現状では、まずは盗まれないことが肝心。次に、盗まれても、すぐに捜査の網にかけることしかないが、それも難しいようだ。