自動車輸入関税率、石油輸出関税率の見直しなどの措置は、新法としてではなく「政府決議」の発効という形で施行されることが多い。この場合、新法採択の場合のように両院での審議や大統領による署名という長いプロセスを経る必要がない。世界経済の動向にあわせた比較的すばやい採択、発効が可能となる。
ロシア連邦憲法115条に従えば、ロシア連邦政府は、ロシア連邦憲法、ロシア連邦法、ロシア連邦大統領令に基づき又はそれらの法規の施行のために政府決議を発行する。政府決議の履行は、ロシア連邦領内全体において義務付けられる。政府決議の多くは国民経済に関するもので、国の経済システム発展のために重要な役割を担っている。
特定のロシア政府決議が、憲法、連邦法又は大統領令に矛盾すると認められた場合、ロシア連邦大統領により同決議は無効にされうる。ロシア連邦憲法裁判所の決定によって、ロシア連邦政府決議の違憲性が認められることもありうる。(辞典『ロシア連邦憲法』より)
政府委員会(komissiya pravitelstva)はロシア連邦政府の機関であり、ロシア連邦の行政機関と各ロシア連邦構成主体の行政機関の間の活動を調整する目的で設置される。政府委員会の委員長は、第一副首相が務めることが多い。政府委員会に参加するのは主に政府のメンバーであるが、関連部門を管轄する省庁の役人等、政府外のメンバーが入ることもある。政府委員会の会議は、必要に応じて開かれるが、月に一度は行うことが決まりとなっている。委員会における決定は、委員の過半数により、議事録の形でまとめられる。
(辞典『ロシア連邦憲法』より)
関税関連の政策の提案は、政府貿易保護措置・関税政策委員会によって行われることが多い。政府委員会とはどのような機関で、当該の委員会の活動の内容、権限はどのようなものだろうか?
2008年12月現在、政府貿易保護措置・関税政策委員会の委員長はビクトル・ズプコフ第一副首相。ナビウリナ経済発展相やゴルデーエフ農相のほかに、ロシア連邦反独占庁アルテミエフ長官等も参加している(2008年9月11日付ロシア連邦政府指令N1310-pに基づく)。
2008年9月11日付政府決議N.660は、同政府委員会に関して次のように規定している。
「政府貿易保護措置・関税政策委員会(以下委員会)はロシア連邦政府に対し、ロシア関税領域への商品の搬入及び同領域から搬出の関税による規制措置に関する問題について提案を行う調整機関である。また委員会は政府に対し、対外経済活動の分野におけるロシア国内市場の保護策および他の国家による差別的な措置に対する対抗策の、現行のロシア連邦法にかなう形での実施に関する問題についても、提案を行う」
上述の決議N.660には、同委員会の主要課題が下記のように規定されている。
A)関税率の設定及び変更についての案を審議、提案を作成する。委員会自体は立法権を持つ主体ではないが、政府が作成し下院に提出する関税関連の法案の骨子となる提案を行うことが出来る。また委員会の決定が政府決議として採択されれば、同決定が連邦法、大統領令などの現行法規に矛盾しない限り、ロシア連邦領全域において拘束力を持つ。
ロシア連邦の立法プロセスには、基本的に5つの段階がある。
前段階
法案または修正案のアイデアが生まれてから、立法権を持つ機関における審議、法案の
作成まで。
ロシア連邦憲法第104条一項によれば、立法権を持つのは、ロシア連邦大統領、連邦会議(上院)及び連邦会議議員、国家会議(下院)議員、ロシア連邦政府、ロシア連邦構成主体の立法府、ロシア連邦憲法裁判所、ロシア連邦最高裁判所、ロシア連邦最高調停裁判所。
第一段階
立法権を有する主体による、法案の国家会議(下院)への提出。
第二段階
下院における審議。審議過程について特別な決定が取られない場合は、基本的には第一読会から第三読会までの審議を経る。
1)第一読会:法案の骨子、合憲性、緊急性・発効した場合の効果等を審議。
2)第二読会:より具体的な条項について審議、修正・補足の審議や採択。
3)第三読会:法案全体についての最終審議。この段階で行われる修正は編集上のもののみ。
*なお、法案が第一読会の時点で可決され、第二、第三読会が行われない場合もある。
第三段階
下院における法案の可決。
通常の連邦法は、下院議員の過半数により採択できる。憲法法の場合は下院議員の3分の2の賛成票が必要となる。
第四段階
下院で可決された法案の、連邦会議(上院)における承認。
第五段階
ロシア連邦大統領による法案の承認と署名。
全ての法案が同じようにこの五つの段階を経て発行するわけではない。法案の内容、また法案に対する両院およびロシア連邦大統領の立場によって、法案審議段階の数は異なる。
下院によって可決された法案でも、上院によって否決された場合、またロシア連邦大統領が否決権を行使する場合は、審議プロセスに追加の手続きが生じる。
(INFRA−M社『大法学辞典』より)
多年懸案となっていたいわゆる「自由経済区(SEZ)」の構想は、今夏に法制度面では具体化した。2005年7月23日、プーチン大統領は、「特別経済区(OEZ)に関する連邦法」に署名し、同時に経済発展通商省傘下に「連邦特別経済区(OEZ)管理庁」を創設し、OEZの監督と運営に当たらせることにしたのである。
この現行の「特別経済区(OEZ)に関する」ロシア連邦法律は、2種類のOEZの設立を見込んでいる:新鋭生産技術を用いて製品の大量生産と組み立て生産を行う「工業-生産OEZ」と、技術革新と取り組む「技術-導入OEZ」である。後者のOEZでは、新技術を開発し、その実用化-商業化を目指す活動が行われる。「工業-生産OEZ」の敷地面積は20`平方メートル以内、「技術-導入OEZ」のそれは2`平方メートル以内に制限される。また、次の業務に従事する企業については、これをOEZ内に配置することはできない:石油およびガス採取・精製加工、有用鉱物の採掘と加工、冶金工場、鉄および非鉄金属のスクラップの加工、さらに自動車とモーターバイク類を除く物品税を課せられる商品(アルコール類、タバコ)の加工と製造。
OEZに登録した「OEZ居住者企業」については、5年間にわたり財産税と土地税を免除されるほか、倍額定率による加速減価償却など会計法上の特典を認められる。ほかに、OEZは“特別の関税体制”の地域とされ、輸出向け商品の製造に用いる原料および構成部品は、輸入関税と付加価値税(NDS)を免除される。「工業-生産OEZ」の参加企業は、初年度には100万ユーロを、当該OEZの全存続期間を通じては合計1000万ユーロを超える投資をせねばならない。OEZは、上記の法律により20年間は存続を保証されており、この期間中に前述の特典が撤廃されることはない。
プーチン大統領は6月5日、税法典第2部および外国投資法第1条の修正案に署名した。この修正法案は、5月に上下両院が可決され、“ロシア連邦における特別経済区に関する”連邦法に、あらたな経済特区の形として観光レクリエーション特別経済特区を加えるというもの。観光特区では、すでに導入されている工業・生産特別経済区、技術・導入特別経済区に付与される居住者企業への優遇措置(財産税、土地税を5年間免除、倍額定率による加速減価償却など会計法上の特典、輸入関税と付加価値税の一部免除など)と同様に、税制面で優遇措置が受けられる。観光特区として有望視されているのは、バイカル湖周辺の保養地など。
エルネスト・バフシェツャン極東税関局長逮捕の裏面について、5月3日付のロシア新聞は地元で流布されている次のような主旨の説を掲載している。
「エルネスト・バフシェツャンは、1年前に極東税関局長に任命されるまで、沿海地方の官界とはまったく無縁の人物であった。この任命に際し、ウラジオストクを訪れたグレフ大臣は、同氏を“国家元首の特命を受けた人”と紹介した。特命とは、沿海地方-中国間の国境通過点において常習的になっていた“保護− 違法行為を高官が隠蔽して保護してやる行為”を根絶することにあった。しかし、一般に流布された説によると、この彼の任務は、地元のビジネス・エリートには、都合が悪かった。中国から沿海地方へ運ばれる貨物についても、“旅行者”についても、ともに沿海地方実業界のフィクサー的ビジネスマンの勢力圏内にある。
バフシェツャン局長のイニシアチブで導入された“担ぎ屋”の活動に対する制限は、“旅行者”の数を減らす結果になっている。中古車輸入の面でも、バフシェツャン局長の下でいわゆる“ミニ・カタログ”が導入され始めたが、同局長はこれにより、中古車市場の商売人の利益を大きく侵害した。そのため、少なくとも、彼を局長のポストから追い落とそうとする企てが何度かあったようである」