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「ボストーク通信」900号発刊に寄せる編集長挨拶:
日本に必要な情報とロシアに必要なビジネス

 河尾 基 (「ボストーク通信」編集責任者)

 経済危機から立ち直り、消費が回復し、今度は危機前のようなバブル的な勢いではないものの、再び走り出すかに見えるロシア。しかし日本との経済関係は相変わらず一進一退で、貿易関係者ならば誰もが感じておられると思われるが、官の音頭に民がうまく乗り切れないケースや、逆に民が官の支援を当てにできず、リスクが高いとされるロシア市場で孤軍奮闘を強いられるケースなど、試行錯誤が繰り返される中で、時折明るいニュースが生まれているような状況である。
 そのうちにもロシア市場は日々進化を続け、極東では中国や韓国の企業が、西側では欧米の企業が提携や新規開拓を進めている。言語的な壁があるせいか、ロシアについては何が起こるか、あるいは何が起こっているのか「分からない」という声は昔から根強い。中には、既に長年ロシアと取引をしている人たちが「ロシアネタ」の冗談で、あるいは日本の顧客を怖がらせて潜在的な競合相手を牽制するためにする営業トークという部分もあるだろう。もちろん、本当に不条理でロシア的なトラブルが少なからずあることも言うまでもない。自分の懐を痛めてロシアで工場を稼動させたり、在庫を持ったりしているわけではない、一介の雑誌編集者である自分は、リスクに対する敏感さは高いプロ意識の現れであることを忘れてはならないと思う。
  しかしコカコーラやP&G、カーギルのような国際的な企業は、何年も前からロシアで本格的な生産を行なっている。また、製造業の高付加価値化や経済の近代化をスローガンとして掲げるロシアが、しばしば日本に協力を呼びかけていることも知られている。日露経済交流促進のための情報配信を旨とする本誌としては、他誌ではあまり報じられない部分も含めて、「分からない」はずのロシアで活発に行なわれているビジネスの実情を伝え、ロシア神話の負の側面の払拭に努めていきたい。
 また、適宜ロシア側の視点の紹介も続けていきたい。ロシアでは、90年代の混乱期に国の資産が食い荒らされたことがトラウマになっているためか、庶民の生活が改善されないのに国家事業等で多額の資金が動き、時には無駄遣いされることに対して、シニカルな見方が強い。ロシアの言論の自由についてはあまり日本ではあまりよいイメージがないかもしれない。しかし、官報とされるロシイスカヤ・ガゼータ紙でさえも、しばしば大衆紙のようなアグレッシブで諧謔に満ちた論調でニュースを伝える。本誌ではそのビジネス情報誌という性格上、ロシアのマスコミの用いる表現があまりに切れ味がよく、それを適度に和らげることに神経を使わざるをえないほどだ。
 ハバロフスクのある記者は「地元の議員たちは、当初は公共料金の値上げに反対したが、プーチン首相の鶴の一声で掌を返した。その結果、ハバロフスク地方だけでエネルギー料金の負債額は29%増え、46億ルーブルになった。企業は競争力を失い、数千社が倒産した。菓子はモスクワから、魚はノルウェーから取り寄せるようになり、店に行っても国産の櫛を見ることはなくなった。病院に高価なMRI検査機を入れても、専用の使い捨て資材に充てる予算がない。村の墓地が足りないといって補助金を受けても、街頭照明に使ってしまう。黒竜江省では電気料金は1キロワット時88コペイカなのに、極東では約3ルーブル。土地の価格も、アムール川をはさんで中国側では1万2000ルーブル/uで、ハバロフスク市では5万7000ルーブル/u。ロシア人の年金生活者が4万世帯もハルビン郊外に移住したのも無理はない。ロシアでは月8000ルーブルかかる公共料金が700ルーブルですみ、食品も安いからだ。月300jの年金でオリガルヒ(財閥)気取りの生活ができる」と訴える。
 本誌では紹介を省くことも多いが、工場の建設などに関するニュースでは、政府は期待される税収や創出される雇用に言及することが多く、庶民の生活の改善をアピールする。これは一例に過ぎず、加工業が未発達な極東では貿易や物流にも敏感であるなどの違いもある。いずれにせよ、生活に大きな不満を抱えるロシアと、こうしたwin-win関係を築くチャンスはまだまだある。そのためのヒントとなるような情報の発信に努めていきたい。


(週刊ボストーク通信900号より)




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