2月10日、日本経済新聞が、トヨタ自動車がウラジオストクにあるSollers(ソレルス)社の工場で2012年をめどに現地生産を開始する意向であると報じた。Sollers社と三井物産が設立する合弁会社にトヨタが部品を納入し、ウラジオストク工場でセミノックダウン方式による組立を行なうという。日経の報道に関して公式の発表はなく、当事者である3社は一様にコメントを避けているが、ロシアのマスコミ及び極東の自動車業界関係者らは既に様々な反応を示している。突然の報道はロシアではどのように受け止められたのか。現地の反響をまとめた。
Sollersウラジオストク工場で組み立てられるSsangYong車 (JSN現地記者提供)
Sollersで進行していた準備
2010年8月、Sollers社のウラジオストク工場を運営する有限責任会社Sollers極東と三井物産が物流の合弁会社「有限責任会社ソレルス・ブッサン」を設立した。しかし、現在Sollers極東が生産しているのは韓国ブランドSsangYong(双竜)の自動車であり、部品は韓国から調達しているため、三井物産との合弁会社がどのような活動を行なうのか不明だった。Sollers極東の担当者も活動内容は未定としかコメントしていなかった(本誌874号に関連記事)。
12月にはコルネイチュクSollers極東代表取締役が「2011年1月末から2月初めに新たな生産事業について発表する。誰もが予想外と思うようなプロジェクトだ」と発言したが、パートナーとの取り決めがあるためまだ詳細は言えないと断っていた(12月27日付Prima Media)。全ては今回のニュースにつながるものだったと見られる。
2月11日付のコメルサント紙によれば、Sollers工場でのトヨタ車の生産については2010年夏から交渉されていたが、日本側の代表がトヨタではなく三井物産だったため、事業の実現性をSollersでは信じていなかったという。コメルサント紙の情報筋によれば、トヨタの代表が交渉の詳細に加わったのは2月になってからのようだ。また、ロシア法人である有限責任会社トヨタ・モーターズの磯谷代表は昨年秋頃からロシアに第2工場を建設する意向について語っていた。
他方で、2010年3月にプーチン首相がRenaultのゴーンCEOに極東での現地生産を提案して以来、Sollersに次いで極東に進出する第2の自動車メーカーに関する話題が断続的にマスコミに流れていたが、トヨタの名前が挙がることはなかった。今年1月にはマツダと日産の代表者が相次いで沿海地方を視察したため、これらのメーカーへの注目が集まっていたところだった。
ウラジオストクで高まる期待
トヨタのウラジオストク進出に関しては現在のところロシア側では公式の発表はなく、日経の報道がロシアのマスコミや極東の自動車関係者らの間で大きな反響を呼んでいる。極東の中古車関係者が集まる自動車情報ポータルサイトDrom.ruでは「センセーション!トヨタが2012年には極東で自動車生産を開始。Land Cruiser Pradoを組立」と見出しをつけたニュースが2月10日付で掲載されている。同ニュースでは同時に「トヨタは本当に近いうちに極東で生産を開始するか?」というアンケート調査も実施しており、2月14日16:00現在、「する」が382票(14%)、「ありえる」が1901票(71%)、「しない」が405票(15%)となっている。Drom.ruはSUVのモデルのひとつであるLand Cruiser Pradoの組立生産に関する事前合意が達せられていると報じており、読者が様々な反響を寄せている。なかには「(AvtoVAZの工場がある)トリヤッチの職人の腕は悪いが、極東の職人はコンストルクトルィやラスピルィの溶接・組み立てで鍛えられている。これからは彼らが合法的に働くことができるようになる。(賄賂がなくなり)懐が寂しくなる税関や道路交通局の職員にとっては悪いニュースだろう」という意見もある。モデルがPradoになる可能性があるとのDrom.ruの非公式の情報に関しては(同じくSUV車のRAV4になるとの説もある)、高価になることが予想されるPradoではなく、手頃な価格帯のモデルを希望する声も多い。
かすむSsangYongブランド?
Sollers極東は1月末にSsangYongブランドの新モデルSUV車NEW Actyonをお披露目したばかり。同ブランドの評価は地元ウラジオストクの中古車関係者らの間では決して高いとは言えない。ある業者は本誌記者に「Sollers極東では殆ど出来上がっている韓国車にハンドルとタイヤをつけているだけだ。ラスピルィを溶接している業者のほうがずっと高い技術を持っている。SsangYongブランド車の生産は、現地生産による関税コストの低減と鉄道輸送料の補助がなければ成り立たない事業だ」と語っている。ハンドルとタイヤをつけているだけというのは大げさだとしても、中古車関税引き上げに苦しめられている極東ではこのような皮肉な見方をする者は多い。また、ある政府関係者がコメルサント紙に語ったところによると、Sollers極東はSsangYongブランド車の生産だけでは赤字となっており(2010年の生産台数は1万3500台)、トヨタ車を生産することで多少とも赤字を補填することができると見られている。
Sollers社は従来、生産だけでなく販売も手がけることを重視してきた。OEMで他社ブランド車を生産するだけでは大きな利益を挙げることはできないからである。今回の提携が実現すれば販売はSollers社ではなく三井物産が担当するため、Sollers社の従来の戦略を曲げることになる。同社としてはそこまでしてでもトヨタとの提携が必要だとみなしていると見ることができる。
極東でのトヨタブランドの人気は依然として高い。特に極東の悪路を走れるトヨタのLand Cruiser等は人気車種となっている。2010年にウラジオストクで一番盗難にあったブランドはトヨタだった(本誌879号に関連記事)。今年創刊20周年を迎えるウラジオストクの有力紙コンクレントも、2月初めに「90年代の伝説」と題した記事を掲載して、90年代初めにウラジオストクで「カルト的な人気を誇った」というトヨタMark IIを特集したばかりである(2月1日付コンクレント紙)。
事業の成否は補助金と関税政策次第か
コメルサント紙によれば、今回の件が進行した背景には税制優遇措置の適用を見込めるようになったことがある。自動車現地生産を行なう際の部品の輸入関税の特恵適用条件は、これまでは年間生産台数2万5000台以上だったが、今後は年間30万台以上の条件に移行することになっている。コメルサント紙の情報筋によれば、2月初めにSollers社は旧来の条件で優遇措置を受けられるようプーチン首相の特例を取り付けたという。
優遇措置は自動車の輸送料に関してもあり、現在Sollers極東で組み立てられた新車をモスクワ方面に送る際、鉄道輸送料は無料となっている(本誌879号に関連記事)。トヨタ車がSollers極東で生産されるようになった場合、この制度が適用される可能性がある。
(週刊ダーリニ・ボストーク通信884号より抜粋)