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特別企画:大使に聞く 日露関係の現在と未来

 4月の安倍首相訪ロや、最近一連の大型案件や新分野での協力、あるいはロシアのアジア重視の姿勢に関するニュースが伝えられ、両国の関係発展への期待が高まっています。ですが実際には何が発展し、動いているのか、あるいは今後動くのでしょうか。日ロそれぞれの国の顔である両大使に書面インタビューにて伺いました。

インタビュー:エブゲニー・アファナシエフ  駐日ロシア連邦特命全権大使

 

*エブゲニー・ウラジーミロビチ・アファナシエフ
駐日ロシア連邦特命全権大使

Евгений Владимирович Афанасьев
Чрезвычайный и Полномочный Посол Российской Федерации в Японии

 1947年5月25日、ロストフ・ナ・ドヌー市生まれ。高校卒業まで東シベリアのチタ市在住。モスクワ国立国際関係大学卒、中国語、英語、フランス語に堪能。家族は妻と息子1人、娘3人。1970年、外務省入省、その後、北京(70〜75年)、ワシントン(76〜84、87〜92年)駐在を経て、在大韓民国ロシア連邦特命全権大使(97〜01年)、在タイ王国ロシア連邦特命全権大使(04〜10年)を歴任、2012年2月から現職。

最近の日ロ間の政治的、経済的関係には好転が見られます。現在の状況や拡大の速度についてどう評価されますか? 何が発展を抑制しているのでしょうか?

 近年、両国の相互関係は、政治的対話、貿易経済協力、文化スポーツ交流、人道的交流、観光交流などあらゆる方面において活発な動きがあるということを喜んで指摘したいと思います。4月には日本の首脳としては10年振りとなるモスクワへの公式訪問が実現し、プーチン大統領と安倍首相は日ロのパートナーシップの発展に関する共同声明を発表しました。共同声明は、事実上、アクチュアルな国際的及び地域的な課題のすべてが含まれています。また、共同声明の他にも、会談の枠内で17件の2国間合意文書に署名がなされました。合意文書は、エネルギー、運輸、投資協力、放射線医学を含むハイテクノロジー、農業、シベリア及び極東の開発、そして例えばテロ行為やマネーロンダリングのような、喫緊の国際問題や脅威との闘いにおける協力にまで及ぶものです。これはまさに両国の協力の及ぶ範囲の大きさを示すものです。
  もちろん、このような協力関係は突然振って湧いたものではありません。ロシアにおいて、日本は良き隣人と認識され(そして実際にそうなのですが)、互恵的関係を結ぶべき当然のパートナーであります。昨年1年間の日ロの貿易総額はおよそ13%増加し、335億jという記録的数字に到達しました。また、日本の実業界がロシアとの協力に強い関心を抱いている証拠に、2012年のロシア経済における日本の累積投資額はおよそ110億jに上りました。
  もちろんこの数字は、我々の観点から申しますと、ロシアと日本という二大国の潜在能力をまだ生かし切れていないように思われます。しかしながら私たちは、今日、両国のリーダーたちの努力の甲斐もあり、先の共同声明において両国がその意志を確認した、多岐にわたる協力関係のさらなる強化と戦略的パートナーシップ確立のためのすべての必要不可欠な土台が、既に形成されたと確信しております。
  また、私たちは、前向きな雰囲気を基盤とした、友好的な二国関係を強化することが両国の国益に合致するという共通認識を確認しました。これはとても重要な認識です。なぜなら、かつて二国間の懸案を「前進」させようとして試みられた様々な行いが、今となっては過去のものとなったことを示しているからです。無論、問題の一部は今でも存在しています。しかしここで重要なのは、今やこれらの問題に関して、友好的で建設的な雰囲気の中で互いに尊敬の念を持って対話を進める準備があるということです。このような雰囲気は、妨げとなるどころか、相互の信頼の強化やあらゆる方面での協力関係の拡大のための努力を、自ら呼び込むことになるのです。

両国のビジネス協力について語るときに、ハイテク分野(スマートエネルギー、医療、ナノテク、通信、宇宙開発等)がどのくらい将来性があるのかという点についてしばしば言及されます。しかし、この分野における実質的な成果はそれほど多くないように思われます。この点について両国の展望を大使はどうご覧になりますか?
 
  ご指摘の通り、日ロ協力において最も将来性が見込めるのは、近代化、イノベーション、先端技術を用いた製造業といった分野です。4月にモスクワでプーチン大統領と安倍首相が会談した際、2人はこれら分野における協力拡大が不可欠であるとの共通の考えを明らかにしました。特に強調されたのは、輸送インフラの近代化、都市環境分野でのソリューション、食品産業の発展、先端医療技術及び医療機器、医薬品の普及といった分野での互恵的な協力関係の拡大です。日ロ首脳会談は、これらの分野における両国の関係を活性化させ、新たな両国の合弁プロジェクトを生み出すこととなるでしょう。少なくとも私たちは、両国企業のビジネスネットワーク緊密化への関心の高まりを感じます。
  先ほどのご質問の中の、「ハイテクの分野の成果がないのではないか」というご意見には賛同致しかねます。むしろ問題は、日本のマスコミが、例えばエネルギー協力のテーマのようには大きく報道しないことにあるのではないかと思います。
  例えば医療分野を例にとってみましょう。わずか1、2年の間に、この分野における日ロ間の交流は非常に活発化しています。昨年の11月と今年の4月には大規模な日ロ医療フォーラムが開催され、日本の医療関係企業に高い関心を呼びました。日本でも世界的にも有名な武田薬品工業が、1億j以上を投資してヤロスラブリ州に建設した製薬工場は、来年には生産を開始します(年間生産能力はアンプル製剤9000万本と錠剤20億錠以上)。ウラジオストクでは北海道の北斗病院とPJLが参画し、最新医療機器を備えた日本の画像診断センターが始動しました。日ロの最新技術を用いた癌診断治療センターをモスクワとウラジオストクに設立する計画についても合意書が取り交わされています。
  東芝や日立のような日本のハイテク企業のロシア市場での活躍を見てみましょう。変圧機器の製造、スマートネットワークやスマートインフラシステムの地域クラスタやイノベーション開発といったプロジェクトが進められています。
  2012年5月には、原子力エネルギーの平和利用に関する日ロ政府間協定が発効しました。これは、原子力の平和利用という分野での協力において、広い可能性の地平を切り開くものです。
  両国間、地域間、ビジネスグループ間の貿易経済関係が活発に発展すればするほど、ハイテク分野にも共同プロジェクトが生まれます。いずれにせよ、私たちには協力を深めるためのすべての条件とポテンシャルがあり、日本のパートナーとの長期的な互恵関係を築きたいと思っております。

日本企業の極東開発への参加の可能性についてどう思われますか? ロシアは極東開発に本腰を入れたことはよく知られています。しかしあまりはっきりしないのは、どのようにして外国企業がこれに参加するのかということです。鉄道や橋、港湾、住宅などをつくるのはロシア企業なのではないでしょうか?

 まずご指摘したいのは、ロシア市場ではドイツやトルコ、その他の多くの国の企業が既に好業績を上げて活躍しているということです。日本の建設会社も徐々に活動を広げています。また、5月にロシア連邦政府が定めた法令では、最新技術を有する企業は、外国籍であれロシア籍であれ、連邦道路及び地域道路の建設事業の入札に参加することができるとされています。
  建設を受注するために重要なのは、契約で求められる条件を遂行するための競争力であって、企業の国籍は関係ありせん。日本の建設会社は我が国のインフラその他の建設において、その力を発揮していいただけるものと確信しております。
  とはいえ、極東地域における協力を建設業だけに限定する必要はありません。首脳会談では、日本と極東シベリア地域とのエネルギー、農業、運輸、インフラ、観光など幅広い分野に及び、貿易経済活動を活性化するための両国の共同プロジェクト推進の重要性が特に言及されました。
  「日露投資プラットフォーム」という新しいメカ二ズムが、これらのプロジェクトを支援することになります。これはロシア直接投資基金(JBIC)、対外経済銀行(VEB)と国際協力銀行(RDIF)が参加する資金総額10億jの基金です。極東シベリア地域における協力を推進するために、官民パートナーシップの構築に関するコンサルティング実施の枠組みが形成されることになります。
  現在、日本企業が極東シベリア地域の開発プロジェクト参加する多くのチャンスが生まれています。エネルギー分野での日ロ協力の例を挙げてみましょう。現在、日本のパートナーと2件のLNG工場建設プロジェクトが進んでいます。ガスプロムによるウラジオストクでの建設計画と、ロスネフチによるサハリンでの建設計画です。また、5月にはロスネフチが国際石油開発帝石(INPEX)とマガダン州のオホーツク海大陸棚の共同開発に関して合意しました。もうひとつの好例としては、ウラジオストクにおいてロシアのソラーズ社との合弁企業という形でマツダ車とトヨタ車の生産が始まったことを挙げられます。
  その他の分野での協力の動きを見てみましょう。日ロ首脳会談の結果、丸紅と極東発展基金がロシア東部での工業プロジェクトの実現に関する覚書に署名しました。また、アムール州政府は北海道銀行と農業分野での協力に関する覚書を締結しました。
  日ロの協業を深化させるにあたり将来性のあるプロジェクトを開拓する際には、ロシア連邦構成主体の行政府が日本で行う、投資誘致と経済的ポテンシャルに関するプレゼンテーションが重要な役割を果たしています。これらのプレゼンテーションの場では、日本企業との出会いが生まれ、具体的な協力のフォーマットが協議されています。4月にはサハリン州とカムチャツカ地方の代表団が日本のビジネスマンにプレゼンテーションを行いました。今後、アムール州とイルクーツク州も訪日を予定しております。大使館もこれらの催しを全面的にバックアップしております。
  日本には「千里の道も一歩から」ということわざがあります。私たちは日本のパートナーに、長期的展望に立った互恵的な貿易経済を確立するための、この一歩を呼び掛けているのです。

領土問題に関して「静かな環境」が必要だとよく言われます。これはいったいどのような環境なのでしょうか? どのような形で事態が進展するのが最適とお考えですか?

 先程申し上げましたように、ロシアには日本と、平和条約の問題を含め、両国の難しい問題に関して、真剣で誠実に話し合う準備があります。繰り返しになりますが、双方に受け入れ可能な解決策を模索することは、日ロ関係の幅広い段階的な発展を背景にしてのみ展望があるのです。そのような模索が、平和条約締結に近づくために不可欠な友好的で建設的な雰囲気を作り出すための担保となるのです。そして両国の関係が質的に更新されれば、結果的に平和条約が締結され、さらなる進化のための揺るぎない基盤を手に入れられることでしょう。
  平和条約交渉に関する何らかの「最適な」スキーム、実現可能なステップなどについて語ることは、すなわち、交渉のプロセスをあれこれ事前に取り沙汰しようとすることであり、まだ存在もしていない解決策の仮想のパラメータをめぐって妄想をたくましくすることです。解決策はこれから模索すべきものであるにもかかわらずです。そしてこのような模索は、いかなる前提条件を付けることもなく、第二次世界大戦の結果である現状をはっきりと理解し、一般に認められている戦後の国際関係システムの原理に対する責任ある態度を持って、さらには、協力の複合的な強化と相互の共感及び信頼強化を背景に、正反対の立場をとる両国を近づけるために緻密な努力を行う覚悟を持って、この模索は行われるべきなのです。
  とはいえ、1つの段階は今でも既に明らかになっていると言えるでしょう。それは、交渉の結果作成される「双方に受け入れ可能な解決策」は、両国の議会及び政治的最高指導部に承認され、また、両国の世論の支持をも得なくてはならないということです。

大使が日本に着任されて以来、日ロのビジネス関係の公式チャンネルが活発化したという話を日本のビジネスマンから聞いたことがあります。また、大使がこれまでに赴任された別の国でも同じことがあったと聞いています。大使は、外交官はビジネスマンの支援者であるというような特別な哲学をお持ちなのでしょうか?

 大使館の仕事をそれほど高くご評価いただきありがとうございます。特にロシアの外交において国を代表するというのは重要で、容易な任務ではありません。国の指導部から課されている課題は、ロシアの長期的発展や、経済の近代化や、世界市場において諸外国と同等の権利を持つための立場の強化を行うために、好適な外的環境づくりを促進することです。そうした中で、外国においてロシアビジネスを政治的にサポートし、赴任国との互恵的な経済関係を外交と共に作り出してゆくこと、これが大使の基本的な任務のひとつです。これが経済分野における我々の哲学です。ロシアの在外公館は皆、同様の哲学に基づいて行動しており、日本においても同様です。
  最近の政府間レベルでの経済分野の議論は確かに活発化しています。何より、昨年11月に東京で開かれた「貿易経済日露政府間委員会」(ロシア側代表を務めたのはシュワロフ第1副首相)のような大きな行事が開かれ、貿易及び投資に関する分科会の枠組みにおいて、運輸、石油、ガス、投資環境、都市整備に関する実務者会合が行われました。
  大使館では、ロシアの経済ブロックの関係省庁の代表者たちと、日本の実業界との定期的なコンタクトを支援しています。私たちは今後の経済関係の発展に関して意見を交換し、将来性の見込めるプロジェクトについて話し合っています。そして多くの日本人ビジネスマンとの間に、友好的なビジネス関係が形成されています。このおかげで、日本の経済成長の基本的な傾向をより深く理解することができ、また、ビジネスパートナーシップにとって将来性の高い分野を明らかにし、興味深いプロジェクトや新しい可能性にパートナーの関心を引きつけ、協力関係の進展を阻むボトルネックを見分けることができるのです。経済問題全般に関する両国のコンタクトの活発化は、ロシアがアピールする経済成長とロシア市場の将来性、また、両国の実業界の互恵的パートナーシップ確立への関心の高まりと連動したものです。
  我々には経済分野全般に関して、建設的な対話をする準備がある、ということを申し上げておきたいと思います。在日本ロシア大使館の扉はいつでも日本人ビジネスマンのみなさんに開かれています。

日本に着任されて1年以上が経ちました。日本での勤務と生活に関してどのような印象をお持ちですか?

 私は日本に来るまで、もちろん、この国について一般的な概念を持っていました。文化や風習、管領、そして豊かな歴史などについてです。しかしながら百聞は一見に如かずで、この国に来て人々と直接かかわり、個人的な経験を積み重ねることは何ものにも勝るものです。
  多くの外国人と同様に、生活文化のレベルの高さ、日本人の愛想の良さ、丁寧さには感嘆させられます。大多数の日本人が持つ特質である謙虚さや、生活における気取りのなさは心から尊敬せずにはいられません。また、街路や公共の場の清潔さ、サービス業のレベルの高さは特に指摘しておきたいと思います。
  仕事においては日本人の時間の正確さ、責任感の強さ、技術的な製造工程だけでなく行政管理機関の職員も仕事のプロセスが組織立っていて整然としていることなどには感心しました。
  全体として、日本での生活の印象は、私にとっても私の家族にとてもポジティブなものです。日本は住むのにとても快適な国です。東京は生活インフラが整備された大都市で、交通システムは比較的便利で、霞ヶ関エリアに日本の主要な省庁がコンパクトに収まっています。私には在日本ロシア大使としての職務がありますから、業務を遂行する上でこれは相当重要なことです。

ロシアは国際関係において「ソフトパワー」の利用に注力しています。日本においてロシアのイメージアップを図るためにどのような活動が行われているのでしょうか? また、この点における両国のマスコミの働きをどうのように評価していますか?
 
  4月の首脳会談の結果、文化センターの設置及び活動に関する政府間合意に署名がなされました。これは、両国の文化の分野において活発化しつつあるコンタクトを、具体的な内容で充実させるためのものです。この分野における相互協力の拡大は、ロシアや新世代のロシア人の文化の果実についての客観的な情報を日本で広めるための一石を投じることになるでしょう。また、この文化センターは、冷戦時代の思想的な遺構であるソビエト時代のステレオタイプが、しばしば現代の国家であるロシア連邦に敷衍されてしまうという弊害を除くこともなるでしょう。
  6月初め、シブィトコイ国際文化協力分野ロシア連邦大統領特使の出席のもと、毎年恒例の、第8回となる日本におけるロシア文化フェスティバルのオープニングセレモニーが行われました。このフェスティバルは日本人にとって「まるでロシアにいるかのように」ロシアを代表する芸術家の団体や個人を知ることができるチャンスです。ジャンルは、ロシアやソビエトの古典芸術や、現代ロシアの絵画や映画における人気の潮流など、ロシアが誇るすべてのものであり、日本においてロシアの名刺代わりになるであろうものです。
  日本においてロシアのポジティブなイメージを強化するには、スポーツの分野での相互協力の拡大も役立つのではないでしょうか。モスクワでの首脳会談においても、来年、2014年は格闘技の分野で日ロの交流が行われ、両国のスポーツ交流を発展させることが発表されました。既に今年7月には、タタルスタン共和国の首都カザンで第27回夏季ユニバーシアード世界大会、10月にはサンクトペテルブルクで第2回となるスポーツアコードワールドコンバットゲームズ(世界武道・格闘技大会)、そして2014年2月にはソチで冬季五輪が開催されます。これらすべての大規模なスポーツの国際大会へ、日本の選手団の積極的な参加をお待ちしております。
  まもなく、両国間のビザ取得手続きの簡素化に関する合意書が発効されます。これは文化、科学、芸術活動に従事する人を対象にしており、ロシアと日本のさらなる人的交流の活発化を目的としています。また、ロシア側は、短期間の渡航に関して、相互にビザ取得を免除する可能性の検討を日本側に提案しています。
  「民間外交」のさらなる発展、文化スポーツ分野における協力の深化、両国の人道交流の強化。これらの活動こそが両国の友好的雰囲気を作り出すための適切な環境を整え、日本におけるロシアのイメージ向上(同様に、ロシアにおける日本のイメージ向上も)を可能にすると確信しております。
  残念ながら、(日本においてロシアのイメージアップを図るという)この点において、ロシアと日本のマスコミの努力は十分ではないと言わざるを得ません。4月のサミットにおける日ロ両首脳の、両国間の友好的関係と互恵的な協力の強化が両国国民間の相互理解の促進を可能にする、という立場に賛同して、マスコミの関係者にはもっとイニシアチブを発揮して頂けるよう期待しています。そうすれば、両国の相互理解は間違いなく深まるでしょう。



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